Last Update: 2011年12月16日

2011年に公表した論文

1. 万葉集20番歌の「蒲生野」の所在地について

   On the Location of "Kamafuno" in the 20th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-24, 2011年12月15日

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   【要旨】 本論文の目的は、額田王と大海人皇子との間に交わされた万葉集20番歌と21番歌の舞台である「蒲生野」の所在地について再検討することである。通説はこれを近江国蒲生郡（現在の滋賀県近江八幡市あるいは八日市市あたり）に比定している。この比定の主な根拠は21番歌の左注に引用されている日本書紀の記事であるが、すでに多くの研究者が指摘しているように、万葉集の左注や日本書紀の記事には信用できないものがある。そこで本論文では、21番歌の左注によらず、歌の原文表記と内容のみに着目して蒲生野の所在地を求めるとき、長門国豊浦郡（現在の山口県下関市）の蒲生野が最も有力な候補地であることを論証する。

    

2. 万葉集395番歌の「託馬野」の所在地について

   On the Location of "Takumano" in the 395th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-10, 2011年12月15日

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   (pdf: 0.68 MB)

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   【要旨】 万葉集395番歌は「託馬野に 生ふる紫草 衣に染め いまだ着ずして 色に出でにけり」という歌である。この歌の解釈には特に問題はないが、初句の「託馬野」という地名の訓み方とその所在地については議論が分かれ、これまで主に次の二つの説が行われてきた。一つは「つくまの」と訓み、現在の滋賀県坂田郡米原町筑摩あたりの地に当てる説である。もう一つは、「たくまの」と訓み、肥後国託麻郡（現在の熊本県熊本市東部から上益城郡の一部）の地に当てる説である。最近の万葉集注釈書を見ると「つくまの」説を採る傾向が見られるが、本論文では新たな根拠を三つ提示することにより、「たくまの」説が正しいことを論証する。

    

3. 万葉集1328番歌の「事なくは」の解釈について

   An Interpretation of the Third Phrase of the 1328th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-6, 2011年12月15日

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   【要旨】 万葉集1328番歌「膝に伏す 玉の小琴の 事なくは はなはだここだ 我恋ひめやも」は日本琴に寄せた譬喩歌である。通説では「膝の上に横たわる玉の小琴のように、事がなければ、甚だしく多く私は恋い思おうか」のように現代語訳されている。しかし、この現代語訳からは何のメッセージも伝わってこない。第三句「事なくは」の「事なし」を「平穏無事である」や「婚姻妨害がない」のように解する注釈書もあるが、それでも歌の意図は伝わってこない。また、この歌は「譬喩歌」に分類されているが、いったい何の譬喩なのか、この点についても通説は納得のいく説明ができていない。本論文では、特にこの歌の第三句「事なくは」の解釈に焦点をあて、この歌に込められた譬喩内容を解き明かすことを試みる。

    

4. 万葉集3754番歌の難訓句「多我子尓毛」について

   An Interpretation of the Difficult Fourth Phrase of the 3754th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-8, 2011年12月15日

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   (pdf: 0.46 MB)

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   【要旨】 万葉集3754番歌は越前国に配流になった中臣朝臣宅守が都の妻に贈った歌で「過所(くわそ)なしに 関飛び越ゆる ほととぎす 多我子尓毛 止まず通はむ」というものである。問題があるのは第四句の「多我子尓毛」である。この句は古来難訓句とされ未だに定訓を見ない。ただ、歌の内容はこの難訓句なしでもおおよそ理解することができ、「過所（通行手形）なしに関所を飛び越えるホトトギスのように、あなたのもとに止まず通おう」という内容だと思われる。本論文では、この難訓句の解読を試みる。

    

5. 万葉集334番歌の「不忘之為」の解釈について

   An Interpretation of the Last Phrase of the 334th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-8, 2011年12月15日

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   【要旨】 万葉集334番歌「忘れ草 我が紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため」は、大伴旅人が故郷の明日香をなかなか忘れることができず、忘れ草を衣の下紐に付けるという内容の歌である。結句の原文は多くの写本に「不忘之為」とあり、古くは本居宣長により「忘れぬがため」と訓読され、「忘れない故に」と解されていた。ところが、万葉集の「ため」は「目的・便益」の意味でのみ用いられ、「原因・理由」で用いられることはないことから、澤瀉久孝氏と大野晋氏によって原文は「忘之為」が正しいとされ、「忘れむがため」と訓読し、「忘れようとして」と解するのが通説となっている。 ところが、この通説には疑問がある。万葉集では「〜むため」や「〜むがため」という表現はすべて「実現可能性のあること」に対して用いられているからである。忘れ草を衣の下紐に付ける程度のことで故郷が忘れられるはずがない。したがって、この歌のような文脈で「忘れむがため」という表現が用いられることは考えられないのである。本論文は、諸本の原文「不忘之為」に従い「忘れぬがため」と訓読し、これを「忘れないことのため＝『忘れない病』のため」と解する案を提案する。

    

6. 万葉集3773番歌の「同じこと」の解釈について

   An Interpretation of the Third Phrase of the 3773th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-5, 2011年12月15日

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   (pdf: 0.30 MB)

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   【要旨】 万葉集3773番歌は、都にいる妻が越前国に配流になった夫に贈った歌で「君がむた 行かましものを 同じこと 後れて居れど 良きこともなし」というものである。通説では「あなたと一緒に行けばよかったのに、同じ事です、後に残っていてもいいことなどありません」と解されている。問題があるのは第三句「同じこと」の解釈である。この歌はいったい何と何が「同じこと」だと言うのだろうか。通説では、妻が一人で都に残って辛い思いをしているのと、夫が越前国に配流になって辛い思いをしているのが「同じこと」だと解されている。しかし、妻は配流の経験などなく、その辛さがわかろうはずもないのに、なぜ都に一人でいる自分の辛さと配流先の夫の辛さを比較して「同じこと」だと軽々しく言うのだろうか。通説はこの点に疑問があるのである。したがって、何と何が同じことなのか、改めて再検討してみる必要がある。

    

7. 万葉集3743番歌と3763番歌の解釈について

   An Interpretation of the 3743th and 3763th Poems in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-8, 2011年12月15日

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   【要旨】 万葉集3743番歌と3763番歌は、越前国に配流になった中臣朝臣宅守が都の妻にあてた歌である。いずれの歌も初句と第二句は同じで「旅といへば ことにそ易き」となっている。通説では第二句を「言にそ易き」と訓み、その意味を「（旅と言えば）言葉の上では簡単なことだ」と解している。ところが、初句の「旅といへば」は「旅と言葉で言えば」の意であるから、第二句の「こと」を通説のように「言」と解すると初句と重複して冗長な表現になる。また、3763番歌の結句「ことにまさめやも」の解釈についても問題がある。本論文は、この二つの歌について、歌の語義にできるだけ忠実に即しながら、かつ歌の意味が通る新しい解釈を提案する。

    

8. 万葉集2535番歌の「行者不念」の解釈について

   An Interpretation of the Second Phrase of the 2535th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資( Masasuke TAKEFU ）

   【出版】

   http://www.manyo-world.com/, 1-7, 2011年12月15日

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   (pdf: 0.39 MB)

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   【要旨】 万葉集2535番歌は「おほろかの こころは（わざとは）思はじ 我がゆゑに 人に言痛く 言はれしものを」と訓読され、その意味は「通り一遍の気持は抱きますまい、私ゆえに人からうるさく噂されたものを」のように解されている。しかし、この歌の第二句原文の「行者不念」を「こころは思はじ」や「わざとは思はじ」と訓むことには問題がある。また、この歌の意味についても通説のような解釈では作者の意図が伝わってこない。というのは、「通り一遍の気持は抱きますまい」という作者の強い決心が、なぜ「自分が原因で人からうるさく噂された」ことと関係するのか、よく理解できないからである。本論文では、特にこの歌の第二句原文「行者不念」の解釈に焦点をあてて検討を行い、歌の意味が通るような新しい訓み方と解釈を提案する。

    

9. 万葉集4401番歌の「韓衣」と「母なしにして」の解釈について

   An Interpretation of the First and Fifth Phrases of the 4401th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第16集1号, pp.51-60, 2011年

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   (pdf: 4.29 MB)

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   【要旨】 万葉集4401番歌「韓衣 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来ぬや 母なしにして」は、信濃国の防人の歌である。一見やさしそうに見える歌であるが、実はいくつか問題がある。通説では、防人の妻はすでに死亡していると想定した上で、初句から第四句を「防人が自らの韓衣（軍服など）の裾に取り付いて泣く子を家に置いて旅立って来た」と解している。しかしこの想定だと、子供が泣く原因は「父がいなくなる」ことであるから、結句は「父なしにして」（あるいは「父母なしに」）となるのが自然ではなかろうか。また、幼い子どもが着物の裾に取り付いて泣くイメージは、今も昔も、母親に対するイメージであるのに、通説は父親の着物の裾に取り付いて泣くと解しており、明らかに常識に反している。本論文では、防人の妻は生きており、子供が幼くて見送りに連れて行くことができないため、見送りに出ようとする妻の韓衣の裾に取り付いて泣く子供を家に残して旅立って来た、というごく常識的な内容の歌だと解する。

    

10. 万葉集2682番歌の「韓衣君に打ち着せ」の解釈について

    An Interpretation of the First and Second Phrases of the 2682th Poem in Manyo-shu

    【著者】

    竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

    【出版】

    佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第16集1号, pp.43-49, 2011年

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    (pdf: 2.93 MB)

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    【要旨】 万葉集2682番歌「韓衣 君にうち着せ 見まくほり 恋ひそ暮らしし 雨の降る日を」は、ある女性が韓衣に寄せて恋愛の気持ちを詠んだ歌である。一見やさしそうに見える歌であるが、実はいくつか問題がある。その一つは「韓衣 君にうち着せ」の解釈である。通説では、この「韓衣」は男性用に仕立てられた着物だと解されている。韓衣は当時の大陸風の高級な着物であるが、こうした着物で着飾るのはたいてい女性であり、またこのような恋愛歌の中に詠み込まれている韓衣であるから、女性用の色鮮やかな着物と解すべきではなかろうか。本論文では、このような視点からこの歌を再検討し、この歌の韓衣が女性用であることを論証する。

     

11. 万葉集3122番歌の「今日だに逢はむを」について

    An Interpretation of the Fifth Phrase of the 3122th Poem in Manyo-shu

    【著者】

    竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

    【出版】

    佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第16集1号, pp.35-41, 2011年

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    【要旨】 万葉集3122番歌は、通説では「心なき 雨にもあるか 人目守り ともしき妹に 今日だに逢はむを」と訓読され、「無情な雨だなあ、人目を気遣って逢うことの少ない妹に、今日だけでも逢いたいと思うのに」のように解されている。この歌の結句は、西本願寺本などには「今日谷相牟」とあるが、元暦校本・類聚古集などの古写本に「今日谷相乎」とあることから、通説では後者が正しいものとされ「今日だに逢はむを」と訓読されている。しかし本論文では、さまざまな点から再検討した結果、前者が正しく「今日だに逢はむ」と訓読し、「せめて今日だけでも逢おう」と解すべきことを提案する。

     

12. 万葉集734番歌の「手に巻かれむを」について

    An Interpretation of the Fifth Phrase of the 734th Poem in Manyo-shu

    【著者】

    竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

    【出版】

    佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第16集1号, pp.27-33, 2011年

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    (pdf: 2.98 MB)

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    【要旨】 万葉集734番歌は、通説では「わが思ひ かくてあらずは 玉にもが まことも妹が 手に巻かれむを」と訓読されている。この歌の結句は、西本願寺本などには「手二所纒牟」とあるが、元暦校本・類聚古集などの古写本に「手二所纒乎」とある。通説では後者の方を正しいものとして「手に巻かれむを」と訓読し、「妹の手に巻かれようものを」と解釈している。しかしこの解釈には疑問がある。なぜならば、この歌の後半部の主語は「玉」であり、単なる物体であるから、「妹の手に巻かれようものを」と「意志」の表現を用いるのは不自然だからである。本論文では、この歌と構造的に類似した343番歌との比較検討から、結句は「手二所纒牟」の方が正しく、「手に巻かれなむ」と訓読し、「手に巻かれるだろう」と解釈すべきことを提案する。

     

13. 万葉集3795番歌の「物不言先丹」の訓釈について

    An Interpretation of the Fourth Phrase of the 3795th Poem in Manyo-shu

    【著者】

    竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

    【出版】

    佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集2号, pp.97-102, 2011年

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    (pdf: 2.54 MB)

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    【要旨】 万葉集3795番歌は竹取の翁から諭された九人の若い娘たちのうちの一人が自らの行為を反省して詠んだ歌である。原文は「辱(尾)忍 辱尾黙 無事 物不言先丹 我者将依」であるが、通説ではこれを「辱(を)忍び 辱を黙して 事もなく 物言はぬ先に 我は寄りなむ」と訓読し、「辱を忍び、辱をだまって、何事もなく、かれこれ物を言わない先に、私はこの老翁に靡き寄りましょう」と解している。 しかし、従来の訓釈にはいくつか問題がある。最大の問題は、原文第四句「物不言先丹」の訓み方である。通説では「物言はぬ先に」と訓んでいる。日本語では「物を言う前（先）に」という表現はあるが、「物を言わない前（先）に」という表現はない（意味をなさない）。本論文では、こうした従来の訓釈の問題点を再検討した上で新たな訓釈を提案する。

     

14. 万葉集3099番歌の解釈について

    An Interpretation of the 3099th Poem in Manyo-shu

    【著者】

    竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

    【出版】

    佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集2号, pp.91-96, 2011年

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    (pdf: 2.45 MB)

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    【要旨】 万葉集3099番歌「紫草を 草と別く別く 伏す鹿の 野は異にして 心は同じ」の解釈は、一見やさしそうに見えるけれども、歌の真意を理解するのはきわめて困難である。この歌が何を比喩しているのかまったくつかめない。例えば、結句は「心は同じ」となっているが、いったい何の心と何の心が同じなのだろうか。従来の注釈書を見ても、どれ一つとして納得のいくものはない。 本論文では、この歌を理解するための手がかりとして、この歌の直前と直後にある歌がいずれも「憤り」の気持ちを詠んだ歌であることに着目し、3099番歌もまた何らかの「憤り」を詠んだものであろうと見当をつけて解釈を試みた。その結果、ある程度納得のいく解釈が得られたので、本論文において結果を提示し、多くの方々のご批判をあおぐことにした。

     

15. 万葉集2120番歌の「秋芽子恋不尽跡」の訓釈について

    An Interpretation of the First and the Second Phrases of the 2120th Poem in Manyo-shu

    【著者】

    竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

    【出版】

    佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集2号, pp.85-90, 2011年

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    (pdf: 2.32 MB)

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    【要旨】 万葉集2120番歌の原文は「秋芽子 恋不尽跡 雖念 思恵也安多良思 又将相八方」であるが、通説ではこれを「秋萩に 恋尽くさじと 思へども しゑやあたらし またも逢はめやも」と訓読し、「秋萩への恋を尽くすようなことはするまいと思うけれども、ええい、やはり惜しい、また逢うことができようか」と解している。その際、第二句の「恋尽くす」は「心を奪われるほどに愛する」や「恋心のありたけを尽くす」などの意に解されている。 ところが、このような解釈には問題がある。通説に従えば、この歌の骨子は「秋萩ごときには心を奪われたくないと思うけれども、萩の花が散ってしまうのはやはり惜しい」となる。この歌の作者はよっぽどの「ひねくれ者」だろうか。もし歌の前半部「秋萩ごときには心を奪われたくない」というのが本心であるならば、後半部は「いっそのこと萩の花など早く散って欲しい」となるのではなかろうか。通説の解釈は、素直な万葉人の詠んだ歌とはとても思えない内容である。本論文では、通説の訓釈の問題点ついて再検討した上で新しい訓釈を提案する。

     

16. 万葉集1425番歌の「恋」の解釈について

    An Interpretation of the "Love" in the 1425th Poem in Manyo-shu

    【著者】

    竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

    【出版】

    佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集2号, pp.77-84, 2011年

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    【要旨】 万葉集1425番歌「あしひきの 山桜花 日並べて かく咲きたらば はだ恋ひめやも」は山部赤人が満開の桜の花を見ながら詠んだ歌である。通説では「山の桜の花が、これから何日も今のように咲いているのなら、こんなにひどく心惹かれることはないだろうに」と解している。問題は結句の「恋」の解釈である。上代語の「恋」は一般に「眼前にない人や物を求め慕う気持ち」を表すが、通説ではこの「恋」を例外的に「対象を目にしながらなお飽き足りなく思う気持ち」と解している。本論文では、この「恋」は例外的なものではなく、上代の一般的な「恋」であることを論証する。また、万葉集408番歌と745番歌の「恋」の解釈についても、通説の解釈には問題があることを指摘する。

     

2010年に公表した論文

1. 万葉集3241番歌の「難乞祷」の解釈について

   An Interpretation of the Second Phrase of the 3241th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集2号, pp.131-136, 2010年

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   【要旨】 万葉集3241番歌の原文の第二句は「難乞祷」となっているが、長らく賀茂真淵の誤字説により「難」を「歎」の誤字として「歎き乞ひ祷み」と訓まれてきた。しかし最近では、「難」の字に「うれふ」の訓みがあり、和語「うれふ」に「歎き訴える」の意があることから「難乞祷」は「うれへ乞ひ祷み」と訓まれ「嘆き訴えながら願い祈る」の意に解されている。 しかし、これらの訓みと解釈にはいずれも疑問がある。この第二句は佐渡島に流された作者が天地の神々を祈るという内容であるが、天地の神々を祈る人が、神々に対して「嘆きながら」祈ったり、「訴えながら」祈ったりするだろうか。神への祈りは、昔も今も「堅く」あるいは「ひたすら」祈るのではないだろうか。このような視点から第二句の「難乞祷」について再検討を行った結果、「難」を「かたく」と訓み「堅く」の意味に解するのがもっとも適切な解釈であるという結論に至った。その根拠については本文で詳述する。

    

2. 万葉集2230番歌の解釈について

   An Interpretation of the 2230th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集2号, pp.123-129, 2010年

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   【要旨】 万葉集2230番歌「恋ひつつも 稲葉かき分け 家居れば 乏しくもあらず 秋の夕風」はごく普通の易しい言葉を用いて詠まれており、少なくとも表面的にはまったく問題がないように見える。しかしこの歌の真意はほとんど伝わってこない。その最大の原因は、「（恋しく思いながらも）稲葉をかき分けて家に居る」ことがなぜ「乏しくもない秋の夕風」につながるのか、その理由が理解できないことにある。 この歌は単独の歌として見る限りその真意を理解するのはきわめて困難である。これまでの先行研究結果がそのことを如実に物語っている。そこで本論文では、この歌の背景には当時すでに「古歌」として多くの人々に愛唱されていた額田王の488番歌と鏡王女の489番歌があり、2230番歌はこれらの歌をふまえて詠まれたことを明らかにする。このような手法は、後に新古今和歌集などでよく用いられる「本歌取」の先駆けとも言えるものである。

    

3. 万葉集1817番歌の「明日者来牟等云子鹿丹」の解釈について

   An Interpretation of the Second and Third Phrases of the 1817th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集2号, pp.111-121, 2010年

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   (pdf: 4.34 MB)

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   【要旨】 万葉集1817番歌「今朝行きて 明日者来牟等云子鹿丹 朝妻山に 霞たなびく」の第二句と第三句は古来難訓とされ未だ定訓をみない。最近の万葉集注釈書も訓みを保留にしている。この難訓箇所には写本による文字の異同があり、誤字や衍字などの可能性が指摘され諸説あるけれどもまだ定説となるには至っていない。 本論文では次のような解釈を提案する。まず第二句と第三句を「明日者来牟等 云子鹿丹」と区切り、歌全体を「今朝行きて 明日は来なむと 云ひしがに 朝妻山に 霞たなびく」と訓読した上で、歌の意味を「（朝帰りする男が妻に）『今朝は帰って行き明日は来よう』と言った（時の）ように朝妻山に霞がたなびいている」と解釈する。ここで大事なポイントは「霞たなびく」という表現である。この表現は通常は単に「春の到来」を表す決り文句にすぎないが、この歌では特に「朝妻」という名前の山に霞がたなびいていること、また「朝妻」は朝帰りする男を見送る妻を表すことから、この歌の作者は「朝妻山に霞がたなびている」という自然現象の中に比喩的に「朝妻が別れを悲しんで心を曇らせている」という人事を重ねて表現し、その悲しみの原因として男が妻に「今朝は帰って行き明日は来よう」と言った時のようだと感じながらこの歌を作っている。

    

4. 万葉集291番歌の解釈について

   An Interpretation of the 291th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集2号, pp.103-110, 2010年

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   【要旨】 万葉集291番歌「真木の葉の しなふ勢能山 しのはずて 我が越え行けば 木の葉知りけむ」は原文の訓読についてはすでに確定しているが、歌の解釈にいくつか問題を残している。最も大きな問題は結句の「木の葉知る」が「木の葉が人間の心を知る」という意味に解され通説となっていることである。現在でも樹齢数百年あるいは数千年の大木に神が宿るとして注連縄などを廻らし信仰の対象とされているが、これはあくまでも木の「本体」に対するものであり、木の「葉」が人間の心を知るなど常識的にとても信じ難い。奈良時代の人々はこんな俗信を共有していたのだろうか。 本論文は結論として次のような解釈を提案する。「しのふ」という上代語には「（目の前にないものを）あれこれ考えて偲ぶ」という意味があるから、この歌の第三句の「しのはずて」を「（山道の行き方に関して）あれこれ考えずに」の意に解し、また「しのはずて」には「しにはづて＝死に葉づて」（落ち葉伝いに）の意が掛けられていると見なし、結句の「木の葉知る」を「木の葉（落ち葉）が山道の行き方を知っている」という意味に解する。このように解釈すると、291番歌をごく常識的な内容の歌として理解することができる。すなわち、深い山道を行く場合、何も考えずに人に踏まれた落ち葉の跡さえ伝って行けば正しく目的地にたどり着ける、という内容として。

    

5. 万葉集3789番歌の解釈について

   An Interpretation of the 3789th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集1号, pp.63-68, 2010年

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   【要旨】 万葉集3789番歌「あしひきの 山縵の児 今日行くと 我に告げせば 帰り来ましを」は三人の男たちから求婚されて入水自殺した娘の死を悼む歌である。この歌の訓読については特に問題ないが、解釈については次の二つの説がある。一つは「もし娘が『今日死にに行きます』と私に予告してくれていたら、旅先から帰って来るのだったのに」と解するもので、もう一つは最後の句を「（娘を死なせずに私が助けて）帰って来たことであろうに」と解するものである。 ところが、こうした従来の解釈にはいずれも問題がある。もっとも素朴な疑問は、昔も今も「今日これから死にに行きます」と予告してから死ぬ人はめったにいないだろうから、「もし死ぬ前に私に予告してくれていたら．．．」という解釈は少し不自然である。そのほかにもいくつか問題点がある。本論文ではこうした従来の解釈の問題点を再検討した上で新しい解釈を提案する。

    

6. 万葉集2171番歌の解釈について

   An Interpretation of the 2171th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集1号, pp.57-62, 2010年

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   (pdf: 2.48 MB)

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   【要旨】 万葉集2171番歌は、注釈書により訓釈の多少の違いはあるけれども、「白露と 秋の萩とは 恋ひ乱れ 別くこと難き 我が心かも」と訓読され、「白露と秋萩の両方に惹かれて心が乱れ、どちらかを選び取ることができない私の心だなあ」と解するのが通説となっている。しかしこのような解釈にはいくつか疑問がある。例えば、通説では白露と秋萩の両方に対して「恋い乱れる」と解しているが、万葉集には「花」に恋する歌は多いけれども、「露」に恋する歌など一つもない。また、春と秋を比較対照して優劣を判定する歌は万葉集や古今和歌集にも例があり納得がいくけれども、白露と秋萩のようなまったく異質なものを比較対照し、しかもどちらがより好きかをなぜ決めなければならないのだろうか。本論文では通説のこのような問題点を再検討した上で新しい解釈を提案する。

    

7. 「にほふ」の語源と万葉集3791番歌の「丹穂之為」の訓釈について

   On the Original Meaning of the Word "Nihohu" and an Interpretation of the 31th Phrase of the 3791th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集1号, pp.49-56, 2010年

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   【要旨】 上代語「にほふ（匂ふ）」の語源についてはすでにいくつかの説があるが、本論文では新たに次のような説を提案する。辞書などに記載されている「にほふ」の主な意味は「赤く色づく、美しい色彩に輝く、香る」などであるが、これらはあくまでも派生した意味にすぎず、その語源はおそらく「におふ（荷負ふ）」であろう。すなわち、「にほふ」という語の原形は「におふ（荷負ふ）」であり、転じて抽象的な「匂い」や「色」や「香り」などを「背負う（帯びる）」という意味で用いられるようになったものと思われる。本論文では具体的な根拠に基づいてこの語源説を論証する。また、万葉集3791番歌の第31番目の句「丹穂之為」の訓釈についても検討する。

    

8. 万葉集443番歌の「牛留鳥」の解釈について

   An Interpretation of the 35th Phrase of the 443th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第15集1号, pp.33-48, 2010年

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   (pdf: 6.73 MB)

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   【要旨】 万葉集443番歌の「牛留鳥」という表現は難訓語の一つで、注釈書によっては「にほ鳥の」、「をし鳥の」、「くろ鳥の」、「しながとり」などと訓まれているが未だに定訓を見ない。歌の作者がどういう意図で「牛留」と表記したのか、その理由がうまく説明できないからである。問題はこれだけではない。万葉集2743番歌の異伝歌の中に「留牛鳥」という表現がある。これは443番歌の「牛留鳥」と密接な関係を予想させるが、写本によっては「留牛馬」や「留鳥」などとも表記され、これもまた訓みが確定していない。 本論文では、443番歌の「牛留鳥」と2743番歌の「留牛鳥」、「留牛馬」、「留鳥」をすべてコンシステントに解釈するために次のような訓み方を提案する。まず443番歌の「牛留鳥」という表記は、牛に荷物を背負わせるために牛を留めることから、「牛留」→「牛を留める」→「におふ（荷負ふ）」→「にほ」という連想によって「にほ鳥」と訓ませることを意図した連想的用字だと考える。万葉集には例えば「あかとき（暁）」を「鶏鳴」と表記する、いわゆる「義訓」表記があるが、443番歌の「牛留鳥」もこの種の表記であろう。2743番歌についても、三つの表記のうち「留牛馬」を本来形だと考えれば、443番歌の場合とまったく同じ発想で「留牛馬」→「牛や馬を留める」→「におふ（荷負ふ）」→「にほ」と訓むことができる。

    

2009年に公表した論文

1. 万葉集391番歌の解釈と「とぶさ立て」の語義について

   An Interpretation of the 391th Poem and the Meaning of the Expression "Tobusatate" in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第13集2号, pp.59-70, 2009年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成21(2009)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2011年6月

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   (pdf: 5.24 MB)

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   【要旨】 万葉集391番歌は、原文の訓読については諸本とも「とぶさ立て 足柄山に 船木伐り 木に伐り行きつ あたら船木を」でほぼ一致しているが、発句「とぶさ立て」の語義と歌の解釈についてはまだ問題が残されている。「とぶさ」に関する現在の通説は、平安時代の辞書である色葉字類抄に「朶 トフサ・エタ」などとあることから、「枝」（あるいは「梢の枝葉」）の意に解されている。また「とぶさ立て」は、樹木を伐採する前にその木の精霊をあらかじめ抜いておくため、梢の枝葉を伐って他の地上に移し立てる儀礼があったことを想定し、こうした儀礼と関連付けて解されている。しかしながら、たとえ「とぶさ」が「枝」の意味をもっていたにせよ、なぜ「枝」が「とぶさ」なのか、またなぜ原文で「とぶさ」が「鳥総」と表記されるのか、十分納得のいく説明はまだない。 一方、歌の解釈については、最近の万葉集注釈書、例えば新日本古典文学大系は「鳥総（とぶさ）を立てて足柄山で船木を伐り、それをただの材木として伐って行ったよ。惜しい船木だったのに」と解しているけれども、本文中でも指摘するように、このような解釈にはいくつか問題点がある。さらに、この歌は「譬喩歌」に分類されているけれども、具体的に何の比喩なのか、諸説はあるけれどもまだ十分に納得できるものはない。 本論文では「とぶさ」の語義について次のように解釈する。「とぶさ」は原文では「鳥総」と表記されているが、これは直接的にはニワトリの「トサカ」を意味するもので、「とり（鳥）＋ふさ（総・房）＝とりふさ」が音韻転訛したものと考える。上代語の「ふさ（総・房）」は「多くのものが房のように集まっているもの」を意味するから、ニワトリのトサカが「房」状をしていることと合致する。さらに、トサカはその形状がギザギザしているから、これが「ノコギリ（鋸）」を連想させ、結果として「とぶさ＝トサカ」は間接的に「ノコギリ」を意味する。当時すでにノコギリが存在していたことは考古学的に実証されているから、船木を伐るのに「ノコギリを立てて」船木を伐ったことは疑いなく、「とぶさ立て」とはまさにこのことを意味するにちがいない。391番歌を解釈する上でもっとも重要なポイントは以上の視点に立ってみることである。具体的な歌の意味や、歌の比喩内容については本文中で詳しく考察する。

    

2. 万葉集2167番歌の解釈と「片聞く」の語義について

   An Interpretation of the 2167th Poem and the Meaning of the Expression "Katakiku" in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第13集2号, pp.51-57, 2009年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成21(2009)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2011年6月

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   (pdf: 2.98 MB)

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   【要旨】 万葉集2167番歌「秋野之 草花我末 鳴百舌鳥 音聞濫香 片聞吾妹」には二つの問題点がある。一つは、第四句「音聞濫香」の「濫」の訓読に関して、現在推量「らむ」として訓む説と、「濫」を「監」の誤字と見なして過去推量「けむ」に訓む説の二つの説があることである。もう一つは、結句「片聞吾妹」の「片聞」の訓読と解釈に関するもので、訓読については、連体形として「かた聞く」と訓む説と、命令形として「かた聞け」と訓む説の二つがあり、解釈についても、前者は「一人で聞く」あるいは「半ばにしか聞かない（中途半端に聞く）」、後者は「よく（ひたすら）聞きなさい」と二つの解釈に分かれていることである。 本論文では、第四句の「濫」を原文どおり「らむ」と訓み、結句の「片聞」を「かた聞く」と連体形として訓み、「片聞」の意味を「片耳を澄ましてひたすら聞く」の意に解する新しい説を提案する。そして「かた聞く」が「片聞」と表記されている理由として、我たちはかすかな音を聞こうとするときにしばしば「片耳」に手を当てて集音器の役目をさせ注意力を集中して聞こうとするが、この様子を文字で表現したのが「片聞」であると考える。

    

3. 万葉集2006番歌の「告げに」の解釈について

   An Interpretation on the Expression "Tsugeni" in the 2006th poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第13集2号, pp.43-49, 2009年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成21(2009)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2011年6月

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   (pdf: 2.88 MB)

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   【要旨】 万葉集2006番歌は、原文の訓読については諸本とも「彦星は 嘆かす妻に 言だにも 告げにぞ来つる 見れば苦しみ」でほぼ一致しているが、解釈についてはまだ問題が残されている。最近の万葉集注釈書、例えば新日本古典文学大系本は「彦星はお嘆きの妻に言葉だけでも告げようとして来た。見ていると辛いので」と解釈しているが、本文中でも指摘するように、このような解釈には問題がある。一方、約40年前に出版された日本古典文学大系本は、本文では上とほぼ同じ解釈をとりながら、脚注に「この歌、難解で諸説がある」とコメントした上で、補注で「彦星は別れを嘆く織女星に、言葉だけもかけずに別れて来た。織女星を見ると苦しいから」という別の「一試案」を提案している。 本論文では2006番歌の解釈を再検討し、第四句「告げにぞ来つる」の「に」は通説のように助詞と解するのではなく否定の助動詞「ず」の連用形（上代特有の用法）とみる解釈、すなわち日本古典文学大系本が補注で提案した「一試案」の解釈こそが適切な解釈であることを論証する。

    

4. 万葉集3223番歌の「日香天之」の解釈について

   An Interpretation of the Second Phrase of the 3223th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集1号, pp.125-130, 2009年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成21(2009)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2011年6月

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   (pdf: 2.45 MB)

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   【要旨】 万葉集3223番歌の出だしは「かむとけの 日香天之」となっている。発句の「かむとけ」は「落雷」を意味するが、第二句の「日香天之」は訓みも意味もまだ確定していない。これまでに試みられた「日香天之」の訓みは注釈書によりさまざまで、「日」や「香」を誤字と見なして「はたたく空の」や「曇れる空の」と訓んだり、原文のままで「光れる空の」や「ひかをる空の」と訓んだりしているが、いずれもまだ定説となるには至っていない。 本論文では第二句の「日香天之」を原文のままで「ひかく空の」と訓み、歌の最初の二句を「かむとけの ひかく空の」と訓んでその意味を「落雷が引っ掻く空の」と解する提案を行う。「ひかく」という語は近世以降に促音便として登場する「ひっかく（引っ掻く）」と同じものである。促音便は漢字表記できないから上代の「文献」史料には残っていないけれども、万葉時代に「話し言葉」として促音便が存在したと思われる痕跡はいくつかあり、その一つが3223番歌の「日香（ひかく）」という表記である。おそらく歌を漢字で表記する際に「ひっかく＝引っ掻く」の促音「っ」が表記できないため、促音を省略して「日香（ひかく）」と表記したのであろう。

    

5. 万葉集1996番歌の「水左閇而照」の解釈について

   An Interpretation of the Second Phrase of the 1996th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集1号, pp.115-123, 2009年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成21(2009)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2011年6月

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   (pdf: 3.62 MB)

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   【要旨】 万葉集1996番歌の原文の第二句に「水左閇而照」という表記がある。この表記の訓みと解釈については従来主に二つの説が行われてきた。一つは「水さへに照る」と訓んで「（天の川の）水面までも照っている」と解するもので、もう一つは原文の「水」の後に「底」を補って「水底左閇而照」と改定した上で「水底さへに照らす」と訓み「（天の川の）水底までも照らす」と解するものである。いずれの説にも問題があるが、もっとも大きな問題は「而」を「に」と訓む点である。万葉集には1235件の「而」の用例があるがほとんどすべて「て」と訓まれており「に」と訓む確例は存在しない。 本論文では「水左閇而照」を「水さへててる」と訓み、その意味を「（天の川の）水さえ照っている」と解する新しい提案を行う。「ててる」という語はほかに例がないけれども、この語の本来形を「てり（照り）＋て＋ある」と想定し、これが当時の口語で「てってる」と促音便で発音され、文字化に際して促音「っ」が省略されて「ててる」と表記されたものと考える。このように考えて初めて「水左閇而照」の「而」を万葉集の標準的な訓み方である「て」として訓むことができ、またこの句の意味も前後の文脈と自然につながるようになる。

    

6. 万葉集2005番歌の「然叙手而在」の解釈について

   An Interpretation of the Fourth Phrase of the 2005th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集1号, pp.105-114, 2009年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成21(2009)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2011年6月

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   【要旨】 万葉集2005番歌の第四句に「然叙手而在」という表現がある。注釈書によっては「かくぞ年にある」、「かくぞ離(か)れてある」、「然(しか)ぞ年にある」、「然(しか)ぞ年にあり」などと訓まれているが未だに定訓をみない。「然叙手而在」は素直に訓めば「しかぞててある」であるが、これでは意味をなさないので第３字目の「手」を「年」の誤字と見なしたり、あるいは「手」を「干」（「離」の借訓）の誤字と見なしたりしてきた。しかし、この第四句は写本に異同がなく誤字が含まれている可能性はかなり小さい。 そこで本論文では、誤字説によらず元の原文「然叙手而在」のままで「しかぞててある」と訓み、「てて」を平安時代以降にしばしば登場する「とて」（「〜と言って」の意）の原形だと考える。「とて」は古今和歌集などにはしばしば登場する基本語でありながら万葉集に一つも例がないのはきわめて不可解なことであり、この不可解さを解消するためにも万葉集では「とて」ではなく「てて」という形で現れていたと考えたい。実際「とて」を意味する「てて」が万葉集中ほかにも二例ある。また「てて」と「とて」は互いに音韻変化形として理解可能である。

    

7. 万葉集984番歌の「我が恋ふる月」の解釈について

   An Interpretation of "the Moon I Love" in the 984th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第14集1号, pp.97-103, 2009年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成21(2009)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2011年6月

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   【要旨】 万葉集984番歌「雲隠り 行くへをなみと 我が恋ふる 月をや君が 見まく欲りする」は豊前国の娘子が「月」に関して詠んだ歌である。この歌は写本に異同がなく、原文の訓読についてもほとんどの注釈書で一致しており、少なくとも表面的にはまったく問題がないように見える。しかしながら、この歌の意味は難解で未だに解釈が定まらない。その最大の原因は歌の前半と後半の内容が自然につながらないことにある。 本論文では、この歌を理解するための手がかりとして、同じ作者によるもう一つの「月」に関する歌（709番歌）「夕闇は 道たづたづし 月待ちて いませ我が背子 その間にも見む」の内容に着目し、984番歌を以下のように解釈する。709番歌の方は意味も明確で、月が出ていないことを理由に相手の男の帰りを少しでも長く引き留めようとする歌である。だとすれば、同じ作者による同じ「月」に関する984番歌もまたこの709番歌と内容的に密接な関連があることが予想される。もしそうだとすれば、第三句の「恋ふ」に類音の「乞ふ」が掛けられていると見て、「月が雲に隠れて家への帰り道がわからないから月が出るまで帰らないでください、と口実を付けてあなたを引き留められるように、もうしばらく雲に隠れて欲しいと私が願っている月なのに、その月をあなたは早く見たいと言うのでしょうか」と解することができる。作者は「月にもうしばらく雲に隠れていて欲しい」と願っているのに、男の方は逆に「その月が早く雲から出て来るのを見たい」と言う、この女と男の月に対する気持ちの「ずれ」を詠んだのがこの歌であろう。このように解すれば「我が恋ふる月をや」の「をや」という語がなぜ用いられているかもよく理解できる。

    

2008年に公表した論文

1. 肥前国風土記における土歯池の所在地について

   On the location of the Hijiha-lake in the Hizen-koku-fudoki

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第12集2号, pp.97-114, 2008年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代1平成20(2008)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2010年4月

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   【要旨】 本論文は肥前国風土記の「高来郡、土歯池」の条に記載された土歯池の所在地について考察したものである。この池については、名前の由来、高来郡の郡家に対する相対的な位置、堤の長さや広さ、池の広さ、池に生えている植物などの情報が比較的詳細に記述されている。にもかかわらず、土歯池の所在地は、この池が現存しないこと、高来郡の郡家の位置が確定していないこと、肥前国風土記の記述自体に信頼性の問題があること、などの理由により諸説がありいまだ定説をみない。 しかしながら、土歯池の所在地を決定することは、単に古代の高来郡に存在したある一つの池について知るという興味にとどまらず、高来郡の郡家の位置を推定することにもつながる重要な課題である。本論文では、土歯池の所在地に関する過去の諸説を検討し、長崎県諌早市森山町唐比東の「唐比湿地」説がもっとも有望な説であることを示す。また、この「唐比湿地」説ほど有望ではないけれども、長崎県雲仙市千々石町の北西部の「千々石」説も可能性が少しはあることを示す。

    

2. 万葉集の枕詞「しらぬひ」の解釈について

   On an interpretation of makura-kotoba "shiranuhi" in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第12集2号, pp.75-95, 2008年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成20(2008)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2010年5月

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   【要旨】 本論文は､これまで長年にわたり「定説をもたない枕詞」とされてきた万葉集における「筑紫」の枕詞「しらぬひ」について考察したものである。その語義とかかり方について､これまで七つの説が提案されてきたが､主なものだけをあげると次の三つの説がある。第一は「不知火」（九州の八代海や有明海に夜半点々と見られる怪火）の意に解する説である。第二は「白縫」（白い縫物）の意に解する説である。第三は「知らぬ日」（都から筑紫までの行程はどれだけの日数がかかるかわからないほど遠い）の意に解する説である。 第一説は､昭和の初期頃まではほぼ定説に近い地位をしめていたようであるが､その後上代特殊仮名遣の観点から「しらぬひ」の「ひ」が「火」の意味ではありえないことが証明され､現在ではこの説を支持するものはほとんどいない。本論文では､第三説にも多くの問題点があることを指摘し､総合的に見て第二説がもっとも妥当な説であることを示す。また､本論文の結論は「しらぬひ」を「白縫」（白い縫物）の意に解する点については従来の第二説と同じであるが､「筑紫」への「かかり方」については新しい解釈を提案する。

    

3. 万葉集210番歌の「鳥穂」の解釈について

   An Interpretation of "Cockscomb" in the 210th Poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第13集1号, pp.243-250, 2008年

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   【要旨】 万葉集210番歌は柿本人麻呂が妻をなくしたときに泣き悲しんで作った三つの長歌（いわゆる「泣血哀慟歌」）のうち第二番目のものである。この長歌の中に「鳥穂」という表現がある。この歌に続いて、表現が多少異なるだけでほとんど同じ内容の第三番目の長歌（213番歌）が掲載されている。そこで第二番目と第三番目の長歌を比較してみると、前者で「鳥穂自物」と表記されているところが後者では「男自物」となっている。したがって「鳥穂」は「をとこ」と訓み、意味は「男」であることは明らかである。問題はなぜ「鳥穂」が「をとこ」と訓めるのかである。この問題に対して現在通説となっているのは、「鳥穂」の「鳥」を「烏」の誤字と見なし、さらに「穂」を「徳」の誤字と見なし、結局「鳥穂」を「烏徳」と原文改訂した上で「をとこ」と訓む、いわゆる「誤字説」である。 ところが、万葉集の写本はすべて「鳥穂」であり「烏徳」と表記されたものは一つもない。さらに、詳細については本文で議論するように、通説の「誤字説」はほかにもいくつか問題点がある。そこで本論文では「鳥穂」を原文のままで解釈する新しい案を提案する。すなわち、「鳥穂」は万葉集に広く用いられている「義訓」の一種であり（例えば「あかとき（暁）」を「鶏鳴」と表記するたぐい）、「鳥穂」という表記は「鶏のトサカ」を表現したものだと考える。鶏のトサカは、本文中の写真でも示すように、雌の小さなトサカに対して雄のトサカは非常に大きく「雄のシンボル」とも言えるものである。しかもノコギリのようにギザギザした形が何となく「穂」に似ている。したがって、万葉時代の人々の頭の中には「鳥穂」→「鶏のトサカ」→「雄のシンボル」→「男（をとこ）」という連想があり、この連想が「鳥穂」を「をとこ」と訓ませたのであろう。こう解釈することで、従来のように不自然な原文改訂を行なうことなく原文のままで歌を理解することができる。

    

4. 枕詞「あられ降り」のかかり方について

   On the Role of the Makura-kotoba "Ararefuri"

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第13集1号, pp.229-241, 2008年

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   【要旨】 「霰降り」（あるいは「霰降る」）は万葉集と風土記の中で用いられている枕詞で「鹿島」、「杵島」、「遠江」、「遠つ大浦」などにかかる。このかかり方の理由として、通説では、霰の降る音が「カシマシ（やかましい）」ことから「鹿島（かしま）」という地名にかかり、また霰が降って「キシム」音をたてることから類音の「杵島（きしま）」という地名にかかり、あるいはまた霰の音が「トホトホ」と聞えることから「遠（とほ）」にかかると説明されている。 しかしこの説明を改めて再検討してみると、「カシマシ」と「キシム」の説明はよいとして、「トホトホ」の説明については、霰の音が果して「トホトホ」と聞えるものかどうか素朴な疑問が残る。また万葉集には、上で示した三つのかかり方のパターンのほかに、「霰降り板敢風吹き」という形で用いられている例がある。従来の解釈では、この歌の「霰降り」だけは「例外」で枕詞ではないとされてきた。しかしこのような取り扱いは他の多くの枕詞の解釈と一貫性がないように思われる。 そこで本論文では次のような解釈を提案する。まず「あられ降り」の「遠江」へのかかり方として、従来のように「遠（とほ）」にかかるとするのではなく、「遠つ（とほつ）」にかかると考える。こうすると、霰が降って「戸を打つ」、すなわち「とうつ（戸打つ）」が類音によって「とほつ（遠つ）」にかかると見ることができる。実際、万葉集の例では「霰降り遠江」、「霰降り遠つ大浦」など「霰降り」を受ける語はすべて「遠つ．．．」となっている。またこの解釈をとることにより、霰が降って家の戸を打つと「やかましい音」をたてることから「カシマシ」や「キシム」の解釈ともコンシステントになる。 一方、これまで「例外」とされてきた「霰降り板敢風吹き」の歌については、「板敢」を「いたかま」と訓み「ひどくやかましい」という意味に解釈する。こう解釈することで、「霰降り」をすべて例外なく枕詞と見なすことができるだけでなく、この枕詞がすべての場合に「やかましい」という共通の意味を背景にもつことが明らかになり、「枕詞」としてコンシステントな解釈が可能となる。

    

5. 肥前国杵島郡の郡名の由来と郡家所在地について

   On the Name and the Location of the Kishima-no-kohori in Hizen-koku

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第13集1号, pp.203-228, 2008年

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   【要旨】 奈良時代の肥前国風土記（現伝本）の杵島郡の条に「杵島」という郡名の由来に関する説話があり、それによれば船を繋ぎとめるための杭を意味する「カシ」にちなんで第十二代景行天皇が「カシ島」と命名し、後にこれが訛って「キ島」になったと説明されている。しかし、本文で詳しく議論するように、この説明にはいくつか問題点があり「カシ島」を「杵島」の由来とするには大いに疑問がある。この説話はむしろ（もし完全な造作でなければ）杵島郡のすぐ南に隣接する「カ島」（現在の佐賀県鹿島市あたり）の由来だったのかも知れない。「カシ島」は「キ島」よりも「カ島」の方に転訛しやすいからである。 ところで、「杵島」の由来については上にあげた肥前国風土記（現伝本）の説話のほかに、万葉集註釈に引く肥前国風土記逸文（乙類）にも記載がある。そこには「杵島の県の南二里のところに孤立した山があり、南西から北東の方角に三つの峰が相連なっており、名づけて杵島の峰と言う」とある。従来、この部分については地理的な解釈のみが行なわれ、ここに「杵島」の由来が述べられていると考えた人はいなかった。本論文では、この内容を詳細に検討し、「杵島」という地名の起源は近くの山々の形が「杵」（「きね」の古語「き」）の形をしていることに由来することを明らかにする。またこの問題に関連して、杵島郡の郡家の所在地や歌垣の山として有名な「杵島の岳」の所在地についても検討する。

    

2007年に公表した論文

1. 万葉集の中の名御者「王良」の歌

   A poem on the famous Chinese charioteer WangLiang in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第11集2号, pp.67-78, 2007年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成19(2007)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2009年5月

   【出版】

   中国関係論説資料（平成20年度分・第2分冊（文学・語学）下）），中国関係論説資料保存会，第50号，p.32,，2010年1月

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   【要旨】 万葉集巻七の1137番歌は，特にその第四句「今歯王良増」が今日なお「訓み」の定まっていない難訓歌の一つである。一般には、第三字目の「王」を「与」（または「世」）の誤りとして「今は寄らまし」などと訓まれることが多いが、多くの研究者の賛同を得るにはいたっていない。 私たちは、この論文において、第四句の「王良」を古代中国の春秋時代に晋の名御者として活躍した実在の人物の名前と解釈し、「おほらふ」（現代的には「おうりょう」）と訓むべきことを提案する。このように訓むことにより、古来難解とされてきたこの歌の「訓み」も「意味」も無理なく解読することができる。

    

2. 万葉集2092番歌における表現「心不欲」について

   On the expression "kokoro-isayohi" in the 2092th poem in Manyo-shu

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第12集1号, pp.91-100, 2007年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成19(2007)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2009年5月

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   (pdf: 3.93 MB)

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   【要旨】 万葉集の中には「心いさよひ」という表現を含む歌が二つある。一つは山辺赤人の「春日野に登りて作りし歌」と題する長歌（03/0372）であり、もう一つは作者不明の「秋の雑歌」の「七夕」と題する長歌（10/2092）である。「心いさよひ」という言葉の意味は、通説では「心がためらう」などと解されている。この言葉は上代文献では万葉集のみに登場する。 ところで、七夕の歌における「心いさよひ」という表現にはまだ問題が残されている。上にあげた二つの歌のうち、山辺赤人の歌の「心いさよひ」は原文に「心射左欲比」と表記されているので問題はないが、もう一方の七夕の歌では「心不欲」という表記になっており、通説ではこれを「心いさよひ」と訓んでいるけれども、果たして「不欲」という部分が「いさよひ」と訓めるのかどうか、あるいはそう訓むことが歌の文脈に照らして適切かどうか、という点にまだ疑問が残されている。この論文ではこれらの点について検討する。最終的な結論として、七夕の歌の「心不欲」という表記は、歌の文脈との関連などから総合的に判断すれば、従来のように「心いさよひ」と訓むことは適切ではなく、「心くだけて（心砕けて）」と訓むべきであることを提案する。

    

2006年に公表した論文

1. びわ湖の環流と柿本人麻呂の近江荒都歌

   The gyro of Lake Biwa and The Kaki-no-moto Hitomaro's Poem on the Ruins of Oumi-Ootsu Palace

   【著者】

   竹生政資・西 晃央( Masasuke TAKEFU, Akihiro NISHI ）

   【出版】

   佐賀大学文化教育学部研究論文集, 第11集1号, pp.17-34, 2006年

   【出版】

   国文学年次別論文集（上代2平成18(2006)年），学術文献刊行会編，朋文出版，2008年4月

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   【要旨】 万葉集の31番歌、柿本人麻呂の近江荒都歌の第二反歌「楽浪の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも」は、通説では「楽浪の志賀の大わだは、今このように（人待ち顔に）淀んでいても、昔の人にまた逢えようか（、逢えはしない）。」の意味に解されている。しかしながら、この解釈が通説化する以前には「淀むとも」の解釈をめぐって議論があった。すなわち、「淀むとも」の「とも」を文法的に「仮定条件（反実仮想）」とみるか、それとも「確定している事実の修辞的仮定」とみるかの議論である。一方、最近のびわ湖の水流の調査研究により、びわ湖の「北湖」には二つの大きな安定した「環流」（渦状の流れ）が存在することがわかってきた。この論文では、31番歌を解釈するにあたって、この「環流」の存在が本質的であることを指摘し、この歌は、現在通説となっている「修辞的仮定」による「実景」を詠ったものと解釈するよりも、むしろびわ湖の「北湖」に存在する「還流」の存在を念頭におきつつ「反実仮想」として解釈すべきことを提案する。